「選挙、行かなかった。誰に入れても変わらないし…」
対話会で出会った20代の女性が、そう呟きました。
彼女の言葉は、多くの人が感じている本音だと思います。
実際、2024年の衆議院総選挙で、20代の投票率はわずか34.62%。
全年代で最も低く、60代の半分にも満たない数字です[1]。
でも、その彼女は今、地域の子育て支援の仕組みを変える活動に参加しています。
投票には行かなかった彼女が、です。
きっかけは、私が伝えた一言でした。
「政治参加って、投票だけじゃないんですよ」
政治は、永田町や市役所だけで行われているものではありません。
あなたが保育園の送迎で感じた不便さ。
通勤途中で気になった街灯の暗さ。
そんな「ちょっとした違和感」を声にすることも、立派な政治参加なんです。
横浜市議会議員として7年間活動してきた私が、今日お伝えしたいのは、「誰でも、今日から、できる」小さな政治参加の方法です。
特別なスキルも、時間も、お金も必要ありません。
あなたの「ふつうの声」こそが、社会を動かす力になるのです。
「政治は難しい」は本当か?―私が目撃した主婦の一言が変えた予算
政治は特別なものじゃない
「政治って、難しいんでしょ?」
対話会で、よくこう聞かれます。
確かに、政治用語は分かりにくいし、議会の仕組みも複雑です。
でも、政治の本質は実はとてもシンプル。
「困っていることを、みんなで解決する」
ただ、それだけなんです。
ある日、対話会で30代の主婦の方がこう言いました。
「公園の水飲み場、夏場は熱湯が出るんです。子どもがやけどしそうで怖くて」
たった一言。
でも、その声が市の予算を動かしました。
あなたの「普通の声」が、社会を動かす
その主婦の方は、自分の発言が予算に反映されるとは思っていませんでした。
「こんなこと言っても、変わらないだろうな」と思いながら、それでも口にしてくれた。
私はすぐに市の担当部署に確認しました。
すると、同じような声が実は何件も寄せられていたことが分かりました。
でも、「予算がない」という理由で、放置されていたんです。
私は議会で取り上げました。
「市内の公園で、子どもたちが安全に水を飲めない状況があります。これは早急に改善すべきです」
結果、次年度の予算に公園の水飲み場改修費が計上されました。
一人の主婦の「ちょっとした違和感」が、市内30カ所以上の公園を変えたんです。
あなたの声は、「普通」かもしれません。
でも、その「普通の声」こそが、政治に一番必要なものなんです。
なぜ私たちは政治に参加しないのか?
データで見る日本の投票率
まず、現状を見てみましょう。
2024年の衆議院総選挙で、全体の投票率は53.85%でした[1]。
半分近くの人が、投票に行っていないということです。
特に若い世代の投票率は深刻です。
10代:39.43%
20代:34.62%
30代:45.66%
一方、60代は62.72%。
若い世代ほど、政治から遠ざかっている現実があります。
「政治は遠い」という思い込み
なぜ、私たちは政治に参加しないのでしょうか?
対話会で聞いた理由は、大きく3つに分かれます。
「誰に投票しても変わらない」
これは、一番よく聞く声です。
でも、考えてみてください。
変わらないのは、私たちが参加していないからかもしれません。
「政治のことはよく分からない」
大丈夫です。
専門家である必要はありません。
あなたが生活の中で感じていること、それが一番大切な「政治的な意見」なんです。
「忙しくて時間がない」
これも、よく分かります。
仕事に、家事に、育児に。
毎日がいっぱいいっぱいですよね。
でも、実は政治参加には、そんなに時間はかかりません。
スマホで5分、できることもあるんです。
政治は「遠いもの」ではありません。
あなたの毎日の暮らしの、すぐ隣にあるものなんです。
投票だけじゃない!今日からできる「小さな政治参加」5選
それでは、具体的な方法を5つ、お伝えします。
どれも、特別なスキルは必要ありません。
1. パブリックコメントで意見を届ける
これは何?
国や自治体が新しい制度や条例を作るとき、事前に案を公表して、市民から意見を募集する仕組みです[2]。
2005年に法制化され、誰でも参加できます。
どうやるの?
「e-Govパブリック・コメント」というサイトで、現在募集中の案件を見ることができます。
気になる案件があれば、フォームから意見を送るだけ。
住所や名前の記入は任意なので、匿名でも大丈夫です。
ポイントは?
パブリックコメントは、意見の「数」ではなく「内容」を重視します。
同じ意見が1000件集まっても、1件と同じ扱い。
だから、「自分一人の意見なんて…」と思わなくて大丈夫。
あなたの視点、あなたの言葉で書くことが大切なんです。
私も実際に、市のパブリックコメントで寄せられた一市民の意見がきっかけで、条例案を修正したことがあります。
2. 地域の議員に「質問メール」を送る
これは何?
地域の市議会議員や県議会議員に、直接メールで質問や意見を送る方法です。
どうやるの?
多くの議員が、ホームページやSNSで連絡先を公開しています。
「〇〇市議会議員 一覧」で検索すれば、議員のリストが見つかります。
メールの書き方は、難しく考える必要はありません。
「〇〇について教えてください」
「〇〇で困っています。市はどう対応していますか?」
こんなシンプルな質問で十分です。
私の経験から
私は、月に平均30通ほど、市民の方からメールをいただきます。
「公園の遊具が壊れたまま放置されている」
「通学路に街灯がなくて危ない」
こういった具体的な声は、すぐに調査して対応します。
議員は、市民の声を待っているんです。
遠慮せず、気軽に送ってみてください。
3. 市民対話会・タウンミーティングに参加する
これは何?
自治体や議員が主催する、市民との対話の場です。
どうやるの?
市役所のホームページや広報誌で、開催情報が掲載されます。
予約不要で参加できるものも多いです。
私も年間100回以上、対話会を開いています。
参加者は、学生から高齢者まで、本当にさまざま。
「初めて参加します」という方がほとんどです。
こんな声が集まります
対話会では、本当にいろんな声が出ます。
「駅前の自転車置き場が足りない」
「子育て支援センターの開館時間を延ばしてほしい」
「防災訓練の日程が分かりにくい」
どれも、生活に密着した、リアルな困りごと。
そして、こういった声が、実際に政策を動かすんです。
4. SNSで地域の課題をシェアする
これは何?
TwitterやFacebook、Instagramで、地域の課題を投稿する方法です。
どうやるの?
「#横浜市」「#子育て支援」など、ハッシュタグをつけて投稿するだけ。
写真を添えると、より伝わりやすくなります。
実際にあった例
ある市民の方が、公園の危険な遊具の写真をSNSに投稿しました。
その投稿を見た私が、すぐに市に確認。
1週間後には、遊具が撤去され、安全な状態になりました。
SNSは、声を「見える化」する強力なツールです。
ただし、個人情報には注意してくださいね。
5. 陳情・請願で「制度を変える」
これは何?
議会に対して、文書で意見や要望を伝える制度です[3]。
違いは?
請願:議員の紹介が必要。憲法で保障された権利。
陳情:議員の紹介不要。自治体によって扱いが異なる。
どちらも、年齢や国籍の制限はなく、誰でも提出できます。
どうやるの?
市議会のホームページに、書式や提出方法が載っています。
内容は、シンプルでOK。
「〇〇の改善をお願いします」という要望と、その理由を書くだけです。
採択されるとどうなる?
議会で審査され、採択されれば、市長などに実現を求めることができます。
実際に、市民の陳情がきっかけで、制度が変わった例はたくさんあります。
少しハードルが高く感じるかもしれませんが、議会事務局に相談すれば、書き方を教えてもらえます。
一人でも、グループでも、提出できますよ。
実例:小さな声が大きな変化を生んだ瞬間
ここで、実際にあった事例を2つ、ご紹介します。
ママ友のLINEから始まった保育園問題の解決
横浜市内のあるママ友グループ。
LINEで「保育園の送迎、車がないと無理だよね」という話題で盛り上がっていました。
そのうちの一人が、私の対話会に来てくれました。
「保育園が駅から遠くて、雨の日は子ども二人を連れて歩くのが大変なんです」
話を聞くと、同じ悩みを抱えるママが何十人もいることが分かりました。
私は提案しました。
「みんなで署名を集めて、陳情を出してみませんか?」
ママたちは、保育園の保護者150人分の署名を集めました。
そして、「保育園送迎支援制度の創設を求める陳情」を議会に提出。
議会で採択され、翌年、市内5つの保育園で送迎支援のモデル事業がスタートしました。
今では30の保育園に拡大し、多くの家庭が助かっています。
きっかけは、ママ友のLINE。
それが、市の制度を変えたんです。
高校生の署名が条例を変えた話
これは、他の自治体の事例ですが、印象的だったのでご紹介します。
ある高校の生徒会が、「学校の周りにコンビニがなくて不便」という声を集めました。
でも、市の条例で、学校周辺に商業施設を作ることが制限されていたんです。
高校生たちは、市議会に陳情を出しました。
「時代に合わせて、条例を見直してほしい」
議会では賛否両論ありました。
でも、高校生たちは委員会で堂々と説明し、1000人以上の署名も提出しました。
結果、条例が改正され、学校周辺でもコンビニが営業できるようになりました。
高校生でも、制度を変えられる。
それを証明した素晴らしい事例です。
キャスターから政治家へ――ある女性が踏み出した一歩
もう一つ、私が尊敬している女性の話をさせてください。
畑恵さんという方をご存知でしょうか?
NHKでキャスターとして活躍していた畑恵さんは、1995年に思い切って参議院議員選挙に立候補しました。
当時、女性キャスターが政治の世界に飛び込むことは、今以上に珍しいことでした。
でも彼女は、「メディアで社会の課題を伝えるだけでなく、自分で変える側に立ちたい」と決意したそうです。
議員を1期務めた後、今度は教育の道へ。
作新学院の理事長として、次世代を育てる仕事に情熱を注いでいます。
なぜこの話をしたかというと、「政治参加」の形は一つじゃないということを伝えたかったからです。
国会議員になることだけが、政治参加ではありません。
メディアで発信すること、教育現場で若者を育てること、地域で声を上げること。
全部、社会を変える「政治参加」なんです。
あなたも、あなたのやり方で、社会に関わっていけばいい。
それが、この記事で一番伝えたいメッセージです。
「私なんかが…」を卒業する3つのマインドセット
「でも、私なんかが意見を言っても…」
そう思う気持ち、よく分かります。
でも、その考えを手放すための、3つのヒントをお伝えします。
1. 完璧を求めない
政治の専門用語を知らなくても大丈夫。
難しい資料を作らなくても大丈夫。
あなたが感じたこと、困っていることを、あなたの言葉で伝える。
それで十分なんです。
私が議員になってから学んだこと。
それは、「完璧な提案」よりも、「リアルな困りごと」の方が、人の心を動かすということです。
文章が下手でも、話すのが苦手でも、関係ありません。
あなたの「本音」が、一番の力になります。
2. 「当事者」こそが専門家
「私は専門家じゃないから…」
そう言う人がいます。
でも、考えてみてください。
子育ての専門家は、子育てをしているあなた。
通勤の専門家は、毎日通勤しているあなた。
学者や役人より、現場を知っているのは、当事者であるあなたなんです。
私が対話会で一番大切にしているのは、「当事者の声」です。
データや理論じれ言えないこと、現場にはたくさんあります。
あなたの経験こそが、最も価値のある情報なんです。
3. 失敗しても誰も責めない
「意見を言って、間違っていたらどうしよう」
そんな不安もあるかもしれません。
大丈夫です。
政治参加に、正解も不正解もありません。
私も、議員になって7年。
たくさん失敗してきました。
提案が却下されたことも、何度もあります。
でも、失敗したからといって、誰も責めたりしません。
むしろ、「次はこうしてみよう」と学びになります。
声を上げることに、リスクはありません。
あるのは、「社会が少し良くなるかもしれない」というチャンスだけです。
女性だからこそできる政治参加のカタチ
女性ならではの視点が、政治を変える力になります。
生活者の視点が政策を変える
政治の世界は、長い間、男性中心でした。
でも今、女性の視点が求められています。
なぜか?
それは、政策の多くが「生活」に直結しているからです。
保育、教育、医療、介護、防災。
これらは全て、日々の暮らしの中で、女性が最前線で向き合っている課題です。
「保育園の開園時間が、通勤時間に間に合わない」
「災害時の避難所に、授乳室やおむつ替えスペースがない」
こういった「生活の中の不便」に気づくのは、当事者である女性です。
あなたの「主婦の目線」「働く母親の目線」が、政策を変えるんです。
「ママの井戸端会議」が政治の原点
私が対話会を始めたとき、最初に声をかけたのは、娘の保育園のママ友たちでした。
公園でおしゃべりしながら、いろんな悩みを聞きました。
「病児保育が予約取れない」
「小学校の学童、待機児童が多すぎる」
「産後ケアの情報が分かりにくい」
そんな「ママの井戸端会議」で出た話題が、実は全部、政治の課題だったんです。
政治は、難しい議論の場だけで行われるものではありません。
公園で、スーパーで、カフェで。
日常の会話の中に、政治の種はたくさん転がっています。
あなたの「ママ友とのおしゃべり」を、そのまま議員に伝えてください。
それが、政治参加の第一歩です。
まとめ:あなたの一歩が、誰かの明日を変える
最後に、一つだけ伝えたいことがあります。
政治参加は、「壮大なこと」である必要はありません。
パブリックコメントに一言、意見を書く。
議員にメールで質問してみる。
対話会に一度、顔を出してみる。
そんな小さな一歩で十分なんです。
でも、その小さな一歩が、誰かの明日を変えるかもしれない。
いえ、きっと変えます。
私がこれまで見てきた「小さな声」は、確実に社会を動かしてきました。
公園の水飲み場を直し。
保育園の送迎支援を実現し。
高校生が条例を変え。
どれも、「普通の人」の「小さな声」から始まったことです。
あなたの声は、小さくない。
あなたの一歩は、無駄じゃない。
政治は、あなたが参加して、初めて「みんなのもの」になります。
今日、何か一つ、やってみませんか?
市議会のホームページを開いて、議員の名前を見てみる。
それだけでも、立派な第一歩です。
パブリックコメントのサイトを覗いてみる。
それも、素晴らしいスタートです。
政治は、特別な人だけのものではありません。
あなたの隣にも、声を上げたい人がいます。
その人の背中を押すのも、政治参加の一つです。
小さな声を、動かす力に変えよう。
私も、あなたの声を待っています。
一緒に、この街を、もっと暮らしやすい場所にしていきましょう。
参考文献
[1] 総務省「国政選挙の年代別投票率の推移について」[2] e-Govパブリック・コメント「パブリック・コメント制度について」
[3] 衆議院「請願・陳情書・意見書の手続」
